インタビュー
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【インタビュー】現場監督から独立、転職を経験した女性建築士に教わる「できない」という勇気

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建築女子
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『できない』と言ったら周りに迷惑をかけそうで、いつも無理をして引き受けてしまう

建築女子
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女性だからといって、甘く見られたくない

男性がほとんどを占める建築業界で、そんな風に感じたことがある女性の建築士は多いかもしれません。

けれど、「ふと我に返ると、やりたかった仕事から外れてきていて働き方を見直したい」と考えたことはありませんか。

そんなときには、建築業界で働く先輩方の話を聞くと参考になります!

建築CADオペ|コハク
建築CADオペ|コハク

そこでこの記事では、建設会社の現場監督から独立、転職を経験した むぎさんに、これまでのお仕事のリアルな体験談を聞きました。

むぎさんプロフィール
女性建築士

高校卒業後に建設会社に就職し、住宅から大型物件まで幅広く手がけたのち、CAD製図のフリーランスとして独立。

2025年5月からは、水道設備系の企業に勤務している。

建設会社時代には現場監督の経験があり、二級建築士の資格も取得。

建築業界の実務経験は30年以上。

話を聞いた人:建築CADオペ|コハク

*本記事で使用している画像はすべてイメージです。

女性建築士インタビュー!住宅がやりたくて働き始めた建設会社

住宅がやりたくて働き始めた建設会社

――まず、建築業界に入ったきっかけを教えてください。

むぎさん 高校卒業後、住宅をやりたくて建設会社に就職しました。

住宅を希望した理由は、男性より女性の方が家にいる時間が長いため「使いやすい家が建てられるのでは」と考えたからです。

最初のうちは住宅ばかり手がけていたのですが、ある程度の年齢になると建築士の資格を取らないといけなくなりますよね。

そこで、二級建築士を取ったら、今度は「戦力」として役所工事や大型商業施設の担当を任されるようになり、住宅を担当する機会は減っていきました。

理想と現実のギャップ資格の取得が招いた方向転換

――資格を取ることで、むしろ理想から離れてしまったのですね。

むぎさん 当時は住宅の現場監督をしている女性はいても、大型物件の現場監督で女の人はいませんでした。

そんな中、当時の勤務先の社長は「うちの現場監督は、役所の工事だってこなせるんだ」と、まるで自慢話のように周囲に話していました。

さらに社長からは「早く一級建築士の資格を取ってくれ。もっと大きな建物を任せられるし、会社のアピールにもなる」と言われるようになったんです。

その言葉を聞いた瞬間、「絶対に一級建築士の資格は取らない」と心に決めました。

資格を取れば取るほど、より大きな現場に回され、自分がますます苦しむ未来が見えたからです。

ストレスや負荷が大きくなり、体調に影響が現れた

ストレスや負荷が大きくなり、体調に影響が現れた

――その頃、体調面に影響が出てしまったと聞きましたが?

むぎさん 30歳頃に過呼吸のような症状が出て、心臓が悪いのかと思って病院に行ったところ「パニック発作になっている」と診断されました。

ストレスが原因で「これが続くとパニック障害になってしまうから、薬で治した方がいい」と言われました。

結局、パニック障害まで進むことはありませんでしたがバランス感覚にも不調が現れるようになったんです。

その頃、建設現場でマンションを担当していたのですが、床だけしか施工されていない外側通路の7階の現場で、まっすぐ歩けず非常に怖い思いをしました。

建物の方に行こうと思っても、どんどん手すりの方に引っ張られていってしまって。

現場はまだ手すりが施工されておらずバリケードしかなかったので、危なかったですね。

――大変な苦労をされましたね。その後、退職することに決めたのですか?

むぎさん そうです。最終的にお腹の調子も崩してしまい、それが辛くて辞めることにしました。18歳で入社して33歳まで働いたので、15年間勤務したことになります。

CADの普及を追い風に、図面描きのフリーランスとして独立

CADの普及を追い風に、図面描きのフリーランスとして独立

――退職後はどのような経緯でフリーランスになったのですか?

むぎさん その頃、紙で書類や図面を描く時代から電子データに変わってきている頃でした。

会社に在籍している時からアルバイトで仕事をもらっていたこともあり、退職後はしばらくそれでなんとか食べていこうと考えていました。

一番最初に依頼を受けたのは、塗装業者からの仕事です。

15階建てほどのビルの塗装工事で、役所に足場の図面を提出する必要があったのですが、CADを描ける人がいないということで依頼されました。

――現場を知っていることが大きな強みになったのですね。

むぎさん 建築系の知り合いや下請け会社でも、役所から直接仕事をもらっているような会社があったのですが、CADを描ける人が少なかったのです。

私は現場監督の経験があるので、塗装や足場の状況も理解できますし、話が通じやすいということがあるのかもしれません。

フリーランス時代の収入は体調を優先しながら進めていた

――お仕事はJw-cadで進めていたのですが?

むぎさん 私の住む地域では、確認申請も含めてJw-cadですべて作成する必要があったので、独立してからもJw-cad1本で仕事をしていました。

忙しくて他のソフトを覚える余裕がなかったので、今もJw-cadで仕事をしています。

――独立後の収入面はいかがでしたか?

むぎさん コロナ禍に入るまでは、月30万ぐらいでした。

でも、コロナ禍に入ってから、やっぱりどこも仕事が減ったり「うちの職員で図面を描くようになったから」などでお断りが入るようになりました。

30万から20万、15万と少なくなってきて、最終的には月5万ぐらいになりました。

その間に結婚したのですが、主人が「あんまり無理しなくていいから、できる範囲でいい。家にいる時間の暇つぶしぐらいでやればいい」みたいな感じで言ってくれたんです。

建設系から水道系のCADへ。異業種への転職でもすぐに飲み込めた

建設系から水道系のCADへ。異業種への転職でもすぐに飲み込めた

―― ご主人が水道設備系のお仕事をされていて、その会社に就職されたとのことですが

むぎさん 水道設備系の企業に務める主人が「会社でCADができる人がいないので、上司がどうしても手伝ってもらえないかと言っている」と相談されたのがきっかけです。

正直、建物を描くのが好きだったので「水道の図面は描きたくない」って最初は断ったんです。

また、建設会社に勤務していた頃の下請け業者だったこともあり、当初ためらっていたのですが、説得されました(笑)。

―― 建築から水道系は、異業種だと思いますが、転職で困ったことはありますか?

むぎさん: 勤務し始めた頃「図面で描く線の本数に比べたら、全然本数少ないでしょう」と言われました。

CADオペレーターならわかると思うのですが、慣れた分野であれば特に迷うことなく図面を描き始められます。

でも、描いたことのない業種の図面だと、どこから1本目を描けばいいかすらも、わからないんです。

全く検討もつかないところから水道独特の記号も学び、3日ほどで「こんな感じなんだ」と覚えることはできました。

雛形を見ながら描けばわかると言われましたが、その雛形自体が間違って描いてあるものがあったりして。

その通りに描いたら「ここは間違っているから、こちらの向きです」と言われて「雛形に描いてあるじゃないですか」なんてこともありました(笑)。

―― 具体的にはどのような図面を描かれているのですか?

むぎさん: 道路から敷地の中に入っていく水道管の方向を描いていく図面です。

「Aさんの家はここの配管がこのように入っています」という感じで、現場にも行き、図面にしていく作業です。今年は180件分を担当しています。

久しぶりの勤務で感じた企業の面白さ

―― 現在の働き方はいかがですか?

むぎさん 勤務先は昔からの知り合いということもあって、働き方にも配慮してくれるんです。

体調のことを理解してくれているので、1ヶ月しっかり通勤することもあれば、フレックスで働いているときもあります。

クラウドを使って、自宅で作成した図面をアップロードして会社にいる人に図面を確認してもらうことも可能です。

―― フリーランス時代からの収入の変化を伺えますか?

収入は、手取りで大体23万円程度です。毎月お給料をもらえていることはありがたいと思っています。

家も購入して住宅ローンもありますし、貯金もしていかなければならないので、安定した収入があるのは助かります。

――フリーランスから企業に戻ってみていかがですか?

一番感じるのは、やはり企業にいると面白いということです。

体調の関係で、1階の総務の中に席を置いてもらっているのですが、いろいろな交流が生まれたり、コミュニケーションが生まれたりするので楽しんでいますね。

一人で活動しているより、コミュニティに属して、同じ仕事をしている仲間がいるというのは興味深いものがあります。

私の隣の人はとても一生懸命仕事をする人ですが、あまりパソコンを打つ音が聞こえなくて「何をしているのだろう」と思う人がいたりもします(笑)。

そういう職場での観察も面白いです。

今、建築設計や現場監督で働き方に悩んでいるなら無理をしないで

今、建築設計や現場監督で働き方に悩んでいるなら無理をしないで

――働き方に悩んでいる建築業界で働く方にアドバイスをお願いします。

むぎさん 体を大事にすること、それが一番だと思います。

建築設計は、帰宅時間が10時を過ぎるなど、過酷な場面もある仕事だと思います。

建設関係は忙しくてキツイとよく言われますが、考え方を変えると楽しい世界でもあります。

その中で、仕事に集中しすぎず健康にも目を向けて、どこかおかしいと思ったらすぐに病院に行くようにオススメしたいです。

健康診断で異常が出ても、仕事を理由に放っておいて取り返しのつかないくらいに悪化してしまったという人も周りにいるので、早めに気付くことが大切だと思います。

「できないことはできない」と伝える勇気と、相手の理解できる言葉で話して解決法を探す

――過去の自分に一声かけるとしたら?

むぎさん 「できないことはできないと素直に言おう」です。

当時の私は、自分ができないと言ったら他の人に負担がかかると思って「わかりました」と何でも引き受けていました。

しかし、無理なものは無理なので上司や周りの人に「なぜ無理なのか」を説明して「それでは難しいね」と理解してもらうことが大切です。

楽しいことでも、無理を重ねていると楽しくなくなってしまいますから。

また、できない理由を相手の立場に立って、理解してくれる話し方で説明することも大切だと思います。

「なぜできないのか」と聞かれたときに、相手も納得できるような伝え方ができるといいと思います。

――とても建設的な解決方法で勉強になります。体と心のバランスを取りながら、働き続けていくことは大切ですね。

まとめ|女性建築士が自分らしい働き方を見つけることの大切さ

まとめ|女性建築士が自分らしい働き方を見つけることの大切さ

むぎさんの話からは、建築業界で長く働き続けるためには、自分の体調や価値観と向き合いながら、時には勇気を持って「できない」と言うことの大切さが伝わってきます。

また、現場経験という強みを活かしながら、状況に応じて働き方を柔軟に変えていくためのコツも学びました。

建築というやりがいのある仕事の楽しさを忘れずに、自分のことも大切にしながら長く続けられる働き方をみつけていきたいですね。

長年の経験からリアルなお話を聞かせてくれたむぎさん、本当にありがとうございました!!

女性建築士の働き方については、以下の記事で深掘りしています。よろしければぜひご覧ください。

女性建築士の働き方とは!強みや弱みを活かしながら仕事を続ける方法
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コハク
コハク
フリーランス建築CADオペ
ハウスメーカーの建築士→設備設計補助→建築CADオペレーターとして独立。 働き方を模索する中で、たくさん悩んで行動したことが今の仕事にもつながっています。後輩の転職相談に乗った経験も多数あります。
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