【体験談】女性一級建築士のキャリア形成と転職時のポイントを聞いてみた!


深夜まで残業は当たり前。事務所内ではタバコの煙……こんな環境だとは思わなかった

設計がしたいのに、監理ばかりで現場が多くて長期間拘束される……!
建築業界で働く中で、理想と現実のギャップに悩んだことはありませんか。
できれば、就職する前に職場や業務内容のリスクは知っておきたいですよね。
今回建築アンテナがお話を伺ったのは、OLになりたい建築士さん。
組織設計事務所からリフォーム会社、ゼネコン、不動産業界まで幅広く経験してきた女性一級建築士です。
OLになりたい建築士さんのリアルな体験談から、建築業界で転職するときのポイントをみていきましょう!

OLになりたい建築士さん(30代) プロフィール

- 大学の研究室で建築の意匠を学び、組織設計事務所に新卒入社(約2年勤務)
- リフォーム会社2社を経験(計5年)。在職中に一級建築士を取得
- ゼネコンで設計職として勤務(約4年半)
- 不動産会社の設計部門に転職したのち早期退職
- 現在、クリーンな環境で働ける次の職場を探して転職活動中
- 保有資格:一級建築士、インテリアコーディネーター、宅建士(受験済)
話を聞いた人:建築CADオペ:コハク(2025年11月)
組織設計事務所の職場環境に疑問を持ち、転職を決意

――一番初めに入社されたのは?
OLになりたい建築士:新卒で組織設計事務所に入社し、約2年勤務しました。主にRC造の建築物を扱っていました。
――組織設計事務所時代は、どのような働き方だったんですか?
OLになりたい建築士:今から10年以上前だということもありますが、労働環境に問題のある職場でした。
事務所内でタバコを吸われていたり、長時間労働が常態化していて、月曜日から土曜日まで出勤があり、夜遅くまで働くことが多かったんです。
――それは大変でしたね。
OLになりたい建築士:当時は新卒で入ったので、それが普通の働き方だと思っていたんです。
そのため、一度設計業界から離れたいと思ってリフォーム業界に転職しました。リフォーム会社は、2社経験しています。
2社目で設計やデザイン提案などの業務をやりつつ、その間に一級建築士も取得しました。
そこでもう一度本格的な建築業務に戻りたいと思って、ゼネコンに転職したんです。
図面を描くだけではないゼネコンの建築設計の仕事

――ゼネコンで働いているときの実際の業務については、どう感じていました?
OLになりたい建築士:正直、入社前のイメージと実際の業務内容にギャップがありました。
設計といえば図面を描く仕事というイメージがあったんですが、実際には設計期間が1〜2年あって、その後の工事監理をする期間が、短くても2〜3年はかかります。
私は4年半勤めていましたが、携われた物件は1.5件くらいでした。
当時勤めていたゼネコンは、設計者が工事期間中に別のプロジェクトに移れるわけではなく、工事監理を継続して担当しなければならなかったんです。
結果として、監理業務の比重が想像以上に大きかったという現実がありました。
現場は男性中心ですし女性にとって働きやすい設備や環境は整っていないので、苦労も多くて。
――本当にやりたい意匠の部分は少なくて、監理の負担が大きかったんですね。組織設計事務所時代とは違いました?
OLになりたい建築士:組織設計事務所の場合は、工事段階に入ると監理の担当者が別に配置される分業体制だったんです。
リフォームやゼネコンでは、設計から監理まで一貫して担当することが多いので、設計業務は全体の1/3程度で、設計監理や調整業務の方がボリュームが大きくなってしまいました。
年収アップを求めて不動産会社へ。そして直面した新たな課題

――ゼネコンから不動産会社に転職されたきっかけは?
OLになりたい建築士:一番はキャリアアップと年収の改善です。
なかなか給料が上がらない設計業界の現実があって、不動産業界は待遇面が良いという情報を得て、転職を決めました。
――不動産会社での業務内容を詳しく教えてもらえますか?
OLになりたい建築士:投資用物件の開発プロジェクトを担当していました。
会社としては、土地を仕入れて、法規的に建築可能な最大限のボリュームで建物を計画し、投資物件として販売するという事業です。
私は設計部門に所属していて、土地に対する建築ボリュームの検討や初期企画、設計事務所に外注した後のプロジェクト管理、工事中の定例会議への出席などを担当していました。
――不動産会社勤務で、年収はどのくらい変わりましたか?
OLになりたい建築士:年収は700万円超えでした。それまでと比べると大幅にアップしたんです。
ただ、リフォーム会社やゼネコンでは、派遣社員から正社員への切り替えなど、雇用形態の変遷もあったので初期評価が低かった点もあります。
不動産会社に転職したときは、最初から正社員採用で、待遇改善を目的に転職先を選んでいたこともあったので、希望通りの条件を実現できました。
――700万円は夢がありますね。待遇面では圧倒的に不動産会社が良かったんですね。
OLになりたい建築士:そうですね。建築業界では残業代の扱いや、みなし残業による基本給の調整などもあったので、その違いもあると思います。
――それでも早期退職された理由は?
OLになりたい建築士:これまでの転職を振り返ると、実は辞める一番のきっかけがタバコだったんです。
不動産会社を辞めた原因も、社員が歩きタバコをしていたり、職場のマナー意識にばらつきがあったりしたことが大きかったですね。
また、組織の文化として男性中心の意思決定が強くて。
設計業界では女性の視点も重視される傾向がありますが、不動産業界では収益性が最優先されるため、女性の意見が十分に反映されないと感じる場面もありました。
会社自体がまだ若い組織で、創業メンバーが全員男性だったこともあり、必然的に男性が働きやすい環境になっていた側面があります。
待遇面での魅力は大きかったのですが、長く働き続けるには組織文化との相性も大切だと実感しました。
転職活動で直面する経験上の建築用途と構造

――現在の転職活動で苦労していることはありますか?
OLになりたい建築士:これまでRC造や共同住宅を中心に経験を積んできたので、例えばハウスメーカーなど木造住宅を扱う企業に応募しても、構造種別の経験不足を理由に書類選考で見送られることが多いです。
30代になると即戦力が求められるため、経験分野のマッチングが重要になってくるんですよね。
内装設計などはまた別のスキルセットが求められますし、同じ建築業界でも分野によって求められる専門性がかなり違います。
これまで積み上げてきたキャリアが、必ずしも全ての分野で評価されるわけではないと感じています。
――キャリアチェンジの難しさを感じているんですね。
OLになりたい建築士:ワークライフバランスが整っている企業は大手が多い傾向があり、中小企業やベンチャー企業は、経験上、労働環境にばらつきがある印象です。
書類が通る会社は、結果的にこれまでと同じ用途や構造を扱う企業に応募先が限られてしまうというジレンマがあります。
また、設計事務所では30代半ばでは皆、一級建築士を持っていることが多いので、資格だけでは差別化が難しいんです。
――これまでの転職活動では転職サイトを活用されました?
OLになりたい建築士:リクルートエージェントを主に利用していました。
――案件数の多さで有名なサイトですよね。他にも利用された経験ありますか?
OLになりたい建築士:ビズリーチも試したことがありますが、プラットフォーム内でさらに別の転職エージェントを介する必要があるケースもあり、手続きが煩雑に感じることもありました。
また、以前、不動産会社に転職した際、求人票の記載内容と実際の労働環境に差があった経験があります。
例えば、完全禁煙やフレックス制度があると記載されていても、実態は違っていたケースがありました。
ただ、これは転職サイト側というより、掲載企業側の情報提供の問題だと理解しています。
転職エージェントとしても、企業の内部事情まで全て把握するのは難しいのかもしれません。
女性建築士として働きながら、資格取得に挑戦し続けてきた理由

――一級建築士、インテリアコーディネーター、宅建士と、たくさんの資格をお持ちで本当に素晴らしいです。働きながら資格勉強をするのは大変だったのでは?
OLになりたい建築士:資格取得は、仕事をする上で、自信を持つための1つの手段でした。
最初に入社した組織設計事務所では同期が全員大学院卒で、かつ男性ばかりという環境で、プレッシャーを感じることもあったんです。
――建築業界では資格が持つ影響力と意味は大きいですもんね。
OLになりたい建築士:はい。名刺に資格が書いてあれば「一級建築士持ってるんだ」と初対面でもある程度の信頼関係を構築しやすくなりますし、男性と対等な立場で議論できると実感しています。
自分の専門性を客観的に証明できる手段になると思います。
転職を考える人へのアドバイス

――転職を考えている方に、アドバイスをいただけますか?
OLになりたい建築士:まず、自分を最優先に考えてほしいです。無理をして体調を崩してからでは遅いので。
それから、雇用形態にこだわりすぎないことも大切だと思います。例えば、派遣社員として大手企業で経験を積むという選択肢もあります。
正社員での採用が難しい企業でも、派遣からスタートすることで道が開けるケースもあると思います。
あとは、設計職をする中での工事監理の業務の比重を、事前に確認しておくとよかったと思っています。
私自身、入社したときには十分に理解していなかったので、実際に入ってからギャップを感じることになりました。
求人票には良いことしか記載されていないケースも多いです。面接の場で、具体的な業務内容や配分について質問するといいと思います。
事前にOBさんに聞くとか、こういったインタビュー記事を読むなどして把握しておけば、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
それに、企業側にとっても早期離職のリスクを減らせるはずです。
――確かに。これまでの経験があるので今は面接でも的確な質問ができそうですね。
OLになりたい建築士:はい。また、結果の受け止め方も変わりました。
例えば、工事監理業務が苦手だと素直に伝えることで、その業務比重が高い企業からは不採用になるかもしれません。
でも、それは結果的に自分にとっても良いことで、それで不採用になった場合でも「縁がなかった」と、前向きに捉えられます。
――自分を良く見せようとして「何でもできます」と言ってしまうより、得意・不得意を正直に伝えた方が、結果的には良いマッチングにつながりますよね。
最後に、今後はどのような働き方を目指しているか教えていただけますか?
OLになりたい建築士:キャリアアップや高収入を追求するフェーズは一段落して、今は働きやすさを実現できる職場を探しています。
意匠をやりたい気持ちは持ち続けているのですが、労働環境の質も重視したいです。
――これまでの経験を活かすことができて、職場環境も満足のいく職場をぜひ見つけてくださいね。
今回は、貴重な体験談を聞かせていただいて本当にありがとうございました!


