【体験談】設計職で海外生活はできる?経験を積んだからこそ踏み切れた経験者に聞いた!


海外で暮らしてみたいけど、建築の仕事をしていると無理かな?

月曜から金曜まで、毎日満員電車に揺られて出勤。今の生活のままでいいのかな……
夢に描いていた理想の生活が、実現できずに終わるのではと不安に思ったことはありませんか。
とはいえ、人生は一度きり!
一歩踏み出すには、実際に海外生活を体験した人の話を聞くのが一番です。

そこで今回は、ワーキングホリデーで1年間の海外生活を経験し、帰国後に独立して自由な働き方を実現している設備設計事務所の くちぱっち さんに、これまでのキャリアや今後の働き方の理想を伺いました。
くちぱっちさん プロフィール

大学で建築学科を卒業後、大手ゼネコンに入社し5年間、設備設計を担当。
その後、ワーキングホリデーでニュージーランドに1年間滞在。
帰国後は再び大手ゼネコンに勤務し、設備設計の専門性を磨く。
2025年4月に独立し、現在は設備設計事務所としてコンストラクションマネジメントや設備設計の実施設計・監理業務を手がけている
話を聞いた人:建築CADオペ|コハク(インタビュー実施時期:2025年8月)
大手ゼネコンに就職し設備設計職としてキャリアをスタート

──設備設計の仕事は最初から希望されていたんですか?
くちぱっち:実は特に設備設計がいいと決めていたわけではないんです。
大学の研究室が省エネ系や照明系の設備寄りのことをやっていたので、面接が進むにつれて「君のバックグラウンドが環境系だから」という形で、自然と設備設計の選考に進んでいました。
1社目は、図面も描いて見積もりもして、現場も見て、引き渡した後のアフター対応まで1人の担当が担う環境だったんです。
フロントからエンドまで全部学べますが、その分、大変さもありました。
──新人時代のエピソードを聞かせてください。
くちぱっち:初めて自分が携わった物件の完成現場に行ったときのことです。
約10か月間設計を進め、工事が始まって実物を目にした瞬間「自分が描いた図面通りになっている!」と、感動したのを覚えています。
例えば、お客さまが外壁に合わせたいと希望したベントキャップの色を自分が指示し、実際に現場に行くと、その色に塗装されている。
メールや電話で打ち合わせを重ねてきたものが、実際に形になっていくところに、建築の面白さを実感しました。
設備設計の専門性とやりがい

——設備設計のこれまでの経験の中で、一番印象に残っている案件はありますか。
くちぱっち:入社3~4年目で担当した人工透析のクリニックの案件です。設備に関する重要項目が多くありました。
例えば、レントゲン室では鉛による防護が必要ですし、透析排水はそのまま下水に流せず、中和槽で中和してから排水しなければなりません。
また、透析液を作る装置や透析配管など、専門的な要素が非常に多かったんです。
過去の事例を参考にしながら進めましたが、自分にとっては大きな挑戦で、苦労したのを覚えています。
引き渡し後も、何か問題が起きれば患者さんの命に関わるため、安心しきれない気持ちも残りました。
——機械の稼働にも関わる設備設計は、責任も重く感じられますね。その分やりがいも大きいのでは?
くちぱっち:そうですね。設備設計は、人間でいうと血管を設計するようなものだと思います。
建築に興味がある人は、意匠やデザインが好きな人が多いですが、実際に経験してみると設備設計には面白さがあると感じています。
建物は、箱だけあっても機能しません。
建物の機能性は設備設計者が担保するため、すごく重要なポジションにいることを感じます。
この夏の暑さもそうですが、昨今の異常気象なども考慮しながら進めていくのが、設備設計の仕事です。
最近は省エネ基準も厳しくなって、ますます需要が高まってきていると感じます。世の中に求められている仕事で、やりがいも感じています。
退職してニュージーランドで1年間の海外生活を過ごす

──1社目の大手ゼネコンを辞めようと思ったきっかけはあったんですか?
くちぱっち:ずっと海外赴任の希望を出していて実現しかけたのに、話がなくなったことです。
上司からもコロナ明け頃に「海外事業部に異動になる」と言われ、挨拶まで済ませたのですが、最終的には行けなくなって、自分の中の糸が切れたような感じでした。
このまま会社にいて海外赴任の機会を待ち続けるくらいなら、退職して個人で行こうと決めたんです。
──どちらの国に行かれたんですか?
くちぱっち:ニュージーランドにワーキング・ホリデーのビザで入国しました。
都会すぎず田舎すぎない環境で、人も優しく自然も豊かだったので、リフレッシュしながら充実した1年間を過ごせました。
永住までは考えていませんが、ビジネスビザや永住権を取得して、もう少し長く滞在するのもいいなと感じることもあったんです。
ただ、これまで築いてきた建築のキャリアを手放してまで、海外でゼロから別の仕事に挑戦しようとは思いませんでした。
建築の仕事をしながら、どこでも働ける働き方が理想

──独立を考え始めたのはいつ頃からですか?
くちぱっち:実は、入社前から独立を考えていました。毎日同じ時間の満員電車に乗って会社へ行き、決まった時間に帰るという生活の繰り返しが、自分の肌には合わないと感じていたんです。
「早く1週間終わらないかな」と思いながら過ごす日々で、入社3年目ごろには、このまま何年も同じ生活を続けるのは、人生がもったいないと強く思うようになりました。
──今、理想としている働き方を教えてください。
くちぱっち:設備設計のこれまでの経験やスキルを生かしながら、時間や場所にとらわれない働き方をしたいと考えています。
PCさえあれば、どこでも図面は描けますし、打ち合わせやミーティングもオンラインで参加できます。
設備設計で安定した仕事をしつつ、海外に半年や1年間滞在したり日本に戻ってきたりと、自由に働ける生活が理想です。
──建築設計はどの場所にいてもできる仕事だということに気付かされますね。
独立する前の不安と今の設備設計業務について

──独立への不安はありませんでしたか?
くちぱっち: ありました。独立は不安定な世界に入ることになるので、辞める直前になって「これでいいのかな」と。
せっかく入社したし給与水準も高い方だと思っていたので、手放すのはすごく勇気が必要でした。
でもその時、読んでいた本に「早いうちに失敗してもまたやり直せる」とか、「起業してダメでもサラリーマンには戻れる」と書いてあって。悩んでいる時間がもったいないので挑戦しようと決めました。
それでも不安だったので、転職サイトのビズリーチに登録しました。
登録後に結構有名な会社からオファーがあったので「今辞めても、ここにオファーが来ている会社には転職できるな」と思ったら、怖く感じなくなりました。
──転職サイトを利用して安心材料が得られて、踏み切れたんですね。その後、独立して良かったことを教えてください。
くちぱっち:働いた分の成果がそのまま自分に返ってくることです。頑張りが収入に直結し、時間の使い方も自由になりました。
例えば納期が1ヶ月の案件を20日で終わらせれば、残りの10日は自由に使える。
パズルを組み立てるように、自分のスケジュールをコントロールできるのが魅力だと感じています。
──現在は主にどのような業務をされているんですか?
くちぱっち:設備設計のCM(コンストラクションマネジメント)業務、実施設計業務、監理業務の3つをやっています。
CM業務では、ゼネコンの工事現場を発注者の立場で管理する業務を設備担当としてやっています。また、図面がある状態で設計監理として現場に入ることもあります。
施工計画書、工程のチェック、配管の納まり、納入仕様書なども確認しています。案件はクリニック・冷凍倉庫・工場など、これまで経験したことがある用途が多いです。
設計職で独立を考えている人へのアドバイス

──これから独立を考えている方にアドバイスをお願いします。
くちぱっち:やはり、周りの人とのつながりを大切にすることだと思います。
辞めるからといって、今の働き方をないがしろにしたり円満じゃない辞め方をしてしまうと、せっかくできた人脈を全部断ち切ってしまいます。
私は独立して一番苦労したのが、ゼロからイチの営業活動だったんです。
何もない状態から契約を取り、お客さまからお金をもらうのは本当に大変です。
今はありがたいことに、すべて人とのつながりで仕事をいただいています。前の会社の先輩からの紹介も多く、人脈の大切さを実感しています。
設備設計1級建築士などの資格はありませんが、前職での実績を知っているからこそ「これだけやってきた人だから大丈夫だろう」と信頼していただいてるのだと感じます。
結局、これまでの環境でどれだけ頑張ったかが、今の仕事につながっている気がします。
その時は辛くても頑張りは自分に返ってくるし、決して無駄になりません。
──独立するからといって今の職場での人間関係をないがしろにするのではなく、むしろ今いる環境で精一杯取り組むことが大切なのですね。
きっと、今まさに職場で頑張っている方の大きな励みになると思います!とても前向きで力強いメッセージをありがとうございました。